「ちいさなご縁」

奈良の都、平城京の隣に法華寺があります。
法華寺は門跡寺院で、すこし変わった茅の輪くぐりが行われています。
お母さんと二人の子どもが茅の輪をくぐり、ふしぎな世界に出会います。

ちいさなご縁
『祈りの寺』

『ちいさなご縁』

「ねえ、どこへ行くの ? 」

実花ちゃんはお母さんの手をギュツとつかみました。

お母さんはだまって笑っています。

「実花ちゃん、ぼく、いったことあるよ」

いっしょに歩いていた大ちゃんは、きゅうにかけ出しました。

「兄ちゃん、私もいく」

ふたりは、手をつないで大きな門の前までやってきました。

「兄ちゃん。入ろう。」

「ここでね。こうやって、手を合わせて・・・・」

「そうですよ、大ちゃん。」

お母さんも大きな手を合わせて、頭を下げました。

実花ちゃんも手のひらをゆっくり合わせて、ペコンと頭をさげました。

「これで、いいの。」

「いいですよ。こうやって五つの指を両手で合わせると、

このお寺の菩薩さまが私たちを守ってくださるのよ」

三人は門をくぐって中に入りました。そしてすぐに大ちゃんや実花ちゃんの何ばいも、何ばいも高い鐘つき堂を見あげました。

「この家、スカートをはいているみたいね」

「ほら、あのまど、きれいな服をきているよ」

お母さんは、子どもたちを見なから、光明皇后や天平の貴婦人を思い浮かべていました。

「あれ、どうしたの」

ふたりは、おどろいてお母さんを見つめました。するとお母さんは

「このお寺は法華寺というの。遠い昔のことを考えていたの・・・・」

と、言うと、ふたりをおおきな大きな堂に連れて行きました。

お堂の前には茅で編んだ大きなみどり色の輪が作ってありました。

「お母さん、真ん中をむすんであるよ」

「あれは、茅の輪といってね。あの輪をくぐって病気にならないようにお願いするの」

「たくさんの人が集まってきたね」

「あの人たちは、大ちゃんや実花ちゃんの頃から、お願いにこられているのよ」

ふたりに、おばさんやおじさんの声が聞こえてきました。

手に茅で作ったお守りやろうそくを灯す小さな献灯をもって

「うれしいね。観世音菩薩さまに体を守ってもらえるよ」

「そうだね。かやのおかゆもおいしかつたね」

と、言っています。

小さなご縁
『芽の守』

実花ちゃんはおばさんの近くにいきました。するとおばさんは

「ま、かわいい、お嬢ちゃん」

「この法華寺さんを立てられた光明皇后さまのように、やさしい人になるのよ。」

と、ポンと肩をたたきました。

実花ちゃんはいそいでお母さんをさがしました。

「実花ちゃん。雨がふってきたよ。」

お母さんが、カサをひろげて実花ちゃんを呼んでいます。

そしてあっというまに、カサの花が広がっていきました。

大ちゃんはすぐに、空を見あげました。するとお母さんは

「だいじょうぶ。門跡さまがお渡りになると、晴れるわ」

と、ニコニコしています。

ちいさなご縁
『華しぐれ』

「お母さん、見て、見て ! 」

大ちゃんがそう叫び、あわてて走りました。

ゆっくり、ゆっくり門跡さまの行列が、大きな輪に近づいてきました。

「門跡さまって、やさしいお顔」

実花ちゃんは小さな声でつぶやきました。するとお母さんは

「そうね。やさしいね、このお寺の十一面観世音菩薩さまは、みんなのしあせを願ってたくさんの人を助けられたやさしい光明皇后さまをモデルにして造られたの」

「門跡さまは、お寺で菩薩さまをお守りされているのよ」

実花ちゃんの前を門跡さまの行列が通りました。

「にいちゃん、門跡さまが私を見られたよ」

「ぼくも・・・大きくて、やさしい目だったよ」」

やがて門跡さまは、ゆっくりと、茅の輪をくぐられました。

そしてそのあとを、たくさんの人がくぐっていきます。

「お母さん、早く」

「だいじょうぶよ、大ちゃん。あせらないで」

お母さんは列の後ろから一歩一歩、ふたりの手をつないで進みました。

茅の輪が実花ちゃんに近づいてきます。胸がドキドキしてきました。

するとお母さんは大ちゃんに茅の輪のお守りを渡しました。

そして実花ちゃんは、お母さんといっしょにロウソクの灯った献灯を手に持ちました。

「ふたりが健康でありますように」

「さあ、くぐりましょう」

お母さんはふたりに声をかけました。

大ちゃんと実花ちゃんは高く足をあげて、茅の輪をくぐりました。

「あ、雨、やんでる」

「よかったね。門跡さまが、毎日、毎日、私たちのしあわせを観世音菩薩さまにお願いされているからよ」

「ほら、聞こえるでしょう」

三人は本堂の前で立ち止まりました。

本堂では読経が始まっていました。

お母さんが手を合わせて、深々と頭を下げると、大ちゃんと実花ちゃんもお堂に手を合わせました。

それからしばらくすると、三人は雨でぬれて光った玉砂利を踏みながら門に向かって歩き出しました。

なが~く続く白い塀の築山に松がきれいに並んでいました。

「みどりがきれいね」

「実花ちゃん、うえを向いてとがった松の葉に雨の粒が、くっついてきらきら光っているよ」

と、お母さんが言いました。

「お空の天の河に、みんなで渡っているみたい」

実花ちゃんは手をあげて走りました。そして手をおもいっきり広げて、お腹いっぱい空気を吸いました。

お母さんは門をでると、すぐにふりかえりました。

そして、手を合わせ、頭を下げました。実花ちゃんも大ちゃんも、くるりと回ると、小さな手を合わせ

「ありがとう。また来るね」
と、何度も何度もつぶやきました。

ちいさなご縁『守り犬』
『守り犬』

ちいさなご縁『親子』
『親子』