法隆寺の境内に法隆寺よりも古いお寺がありました。
そのお寺は若草伽藍と呼ばれ、そのお寺の池が今も残っています。
その池は「よるかの池」とよばれカエルが住んでいました。
『おさかな星』
『おさかな星』
真ちゃんはおとうさんが大好きでした。
お父さんと真ちゃんは、つりをしていました。
「ひいてるよ。」
「やった。二ひきも」
「お父さん、やった。すごい!」
「ぼくも手伝うよ。」
真ちゃんはお父さんの手をつかみました。
「よし、いいぞ!」
ふたりの声がお母さんにも聞こえました。
「親子だね!ぼくたちといっしょだ!」と真ちゃんはお父さんの顔をみつめました。
すると、おとうさんは笑いながら
「釣ったら、逃がしてあげようか、真ちゃん」と言いました。
そして真ちゃんがうなずくと、お魚さんを海に離してやりました。
しばらくしてお父さんは、真ちゃんを膝の上に座らすと、おはなしをはじめました。
ある海の近くの村に、漁が上手な青年が住んでいました。
青年は、いつも海にでかけて、たくさん、魚をとっていました。
ところがある日。
青年が、暗くなっても、村に帰ってきませんでした。
そして、つぎの日も、またつぎの日も・・・・
「どうしたのだろう!」
村の男たちは、青年をさがしに、海へ出ていきました。
そして大声で、青年のなまえを呼びました。しばらくすると、海の中から、
「だいじょうぶ。大丈夫、探さないで」と、青年の叫ぶ声が聞こえてきました。
だけど、青年はどこにもいません。みんなは、海に飛び込みました。
すると、みんなの耳に
「みんな、そんなにバタバタあわてないで!」と、聞こえてきました。
みんなはすぐに
「わかった。どこにいるの!」と、さけびました。
すると「ここだよ。」と、また、きこえてきました。
そして、みんなのまえに、おおきな魚がやってくると、ぱくりと、口をあけました。
青年は、笑って手を振っていました。
「わあ、そんなところに ! 」
そして、男たちは、魚の口の中の入った青年といっしょに村の近くまで、やってきました。
すると、魚は口をとがらして、ふうーと青年を浜辺に、ふきとばしました。
そして、すぐに、ふかい海に、もどっていきました。
青年や男たちは、また、漁をつづけましたが、それからは、つった魚に、
「ありがとう」と、手を合わせることにしました。
真ちゃんはお父さんに、
「そのおさかなさんは ? 」と、尋ねました。
おとうさんは
「きっと魚の王様だよ。」と、教えてくれました。
そして、真ちゃんとお父さんはお空に、光った星をみつけました。
たくさんの星は、おさかなさんのようにひろい海を、およいでいるようでした。
ふたりは一番、キラキラ光る星を
「おさかなさんの、ほし」と、呼ぶことにしました。
真ちゃんが、手をのばすと、おさかなさんの星は
「ふたりは仲良しね」
「たのしかった!」 と、話してくるようでした。
真ちゃんは、お父さんの手を、ぎゅーと、つかんで、はなしませんでした。
『ちいさなご縁』
奈良の都、平城京の隣に法華寺があります。
法華寺は門跡寺院で、すこし変わった茅の輪くぐりが行われています。
お母さんと二人の子どもが茅の輪をくぐり、ふしぎな世界に出会います。
『ちいさなご縁』
「ねえ、どこへ行くの ? 」
実花ちゃんはお母さんの手をギュツとつかみました。
お母さんはだまって笑っています。
「実花ちゃん、ぼく、いったことあるよ」
いっしょに歩いていた大ちゃんは、きゅうにかけ出しました。
「兄ちゃん、私もいく」
ふたりは、手をつないで大きな門の前までやってきました。
「兄ちゃん。入ろう。」
「ここでね。こうやって、手を合わせて・・・・」
「そうですよ、大ちゃん。」
お母さんも大きな手を合わせて、頭を下げました。
実花ちゃんも手のひらをゆっくり合わせて、ペコンと頭をさげました。
「これで、いいの。」
「いいですよ。こうやって五つの指を両手で合わせると、
このお寺の菩薩さまが私たちを守ってくださるのよ」
三人は門をくぐって中に入りました。そしてすぐに大ちゃんや実花ちゃんの何ばいも、何ばいも高い鐘つき堂を見あげました。
「この家、スカートをはいているみたいね」
「ほら、あのまど、きれいな服をきているよ」
お母さんは、子どもたちを見なから、光明皇后や天平の貴婦人を思い浮かべていました。
「あれ、どうしたの」
ふたりは、おどろいてお母さんを見つめました。するとお母さんは
「このお寺は法華寺というの。遠い昔のことを考えていたの・・・・」
と、言うと、ふたりをおおきな大きな堂に連れて行きました。
お堂の前には茅で編んだ大きなみどり色の輪が作ってありました。
「お母さん、真ん中をむすんであるよ」
「あれは、茅の輪といってね。あの輪をくぐって病気にならないようにお願いするの」
「たくさんの人が集まってきたね」
「あの人たちは、大ちゃんや実花ちゃんの頃から、お願いにこられているのよ」
ふたりに、おばさんやおじさんの声が聞こえてきました。
手に茅で作ったお守りやろうそくを灯す小さな献灯をもって
「うれしいね。観世音菩薩さまに体を守ってもらえるよ」
「そうだね。かやのおかゆもおいしかつたね」
と、言っています。
実花ちゃんはおばさんの近くにいきました。するとおばさんは
「ま、かわいい、お嬢ちゃん」
「この法華寺さんを立てられた光明皇后さまのように、やさしい人になるのよ。」
と、ポンと肩をたたきました。
実花ちゃんはいそいでお母さんをさがしました。
「実花ちゃん。雨がふってきたよ。」
お母さんが、カサをひろげて実花ちゃんを呼んでいます。
そしてあっというまに、カサの花が広がっていきました。
大ちゃんはすぐに、空を見あげました。するとお母さんは
「だいじょうぶ。門跡さまがお渡りになると、晴れるわ」
と、ニコニコしています。
「お母さん、見て、見て ! 」
大ちゃんがそう叫び、あわてて走りました。
ゆっくり、ゆっくり門跡さまの行列が、大きな輪に近づいてきました。
「門跡さまって、やさしいお顔」
実花ちゃんは小さな声でつぶやきました。するとお母さんは
「そうね。やさしいね、このお寺の十一面観世音菩薩さまは、みんなのしあせを願ってたくさんの人を助けられたやさしい光明皇后さまをモデルにして造られたの」
「門跡さまは、お寺で菩薩さまをお守りされているのよ」
実花ちゃんの前を門跡さまの行列が通りました。
「にいちゃん、門跡さまが私を見られたよ」
「ぼくも・・・大きくて、やさしい目だったよ」」
やがて門跡さまは、ゆっくりと、茅の輪をくぐられました。
そしてそのあとを、たくさんの人がくぐっていきます。
「お母さん、早く」
「だいじょうぶよ、大ちゃん。あせらないで」
お母さんは列の後ろから一歩一歩、ふたりの手をつないで進みました。
茅の輪が実花ちゃんに近づいてきます。胸がドキドキしてきました。
するとお母さんは大ちゃんに茅の輪のお守りを渡しました。
そして実花ちゃんは、お母さんといっしょにロウソクの灯った献灯を手に持ちました。
「ふたりが健康でありますように」
「さあ、くぐりましょう」
お母さんはふたりに声をかけました。
大ちゃんと実花ちゃんは高く足をあげて、茅の輪をくぐりました。
「あ、雨、やんでる」
「よかったね。門跡さまが、毎日、毎日、私たちのしあわせを観世音菩薩さまにお願いされているからよ」
「ほら、聞こえるでしょう」
三人は本堂の前で立ち止まりました。
本堂では読経が始まっていました。
お母さんが手を合わせて、深々と頭を下げると、大ちゃんと実花ちゃんもお堂に手を合わせました。
それからしばらくすると、三人は雨でぬれて光った玉砂利を踏みながら門に向かって歩き出しました。
なが~く続く白い塀の築山に松がきれいに並んでいました。
「みどりがきれいね」
「実花ちゃん、うえを向いてとがった松の葉に雨の粒が、くっついてきらきら光っているよ」
と、お母さんが言いました。
「お空の天の河に、みんなで渡っているみたい」
実花ちゃんは手をあげて走りました。そして手をおもいっきり広げて、お腹いっぱい空気を吸いました。
お母さんは門をでると、すぐにふりかえりました。
そして、手を合わせ、頭を下げました。実花ちゃんも大ちゃんも、くるりと回ると、小さな手を合わせ
「ありがとう。また来るね」
と、何度も何度もつぶやきました。